「子ども自身が考える」場のヒント③
…子ども同士の関係

  • 2025.05.28
  • SRU

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「子ども自身が考える」場のヒント③
…子ども同士の関係

 

初めての「全国」につながった、
子どもがのびのびプレーできる環境づくり

[しながわバンブーミニ2024・コーチング インタビュー/③(全3回)

 

INTERVIEW(上写真・左から)

三矢洋介[しながわバンブーRC代表者(兼 高学年HC)]
小西良介[高学年コーチ/トレーナー(同左)]
福岡大輔[高学年HC(5年生コーチ)]
※肩書のカッコ内は2024年度のもの/HC=ヘッドコーチ

 

しながわバンブーラグビークラブ(ミニラグビー=小学生の部)は、2024年度に初めて全国大会に出場しました。そもそも、強豪になることを命題に掲げていないチーム。フィールドにあるのは「子どもたち自身が決める」空気でした。コーチたちは「小学生の全国大会」をどうとらえているのか。2024年の指導陣に聞きました。

追い込むのではなく、盛り上げる材料としての「勝ち負け」

 

――バンブーミニ(小学生)の、2024年の指導について、キーとなるフレーズがいくつか挙がってきました。

 

・子どもたちのチャレンジにNOと言わない

・プレーヤーが委縮しない空気/表現することを肯定する空気

・大人がしゃべる時間を短く/子がプレーする機会を多く

・大人も、支える者としての当事者意識を持つ

 

小西 これは保護者の参加にも絡むことなんですけれど。僕がトレーナーとして三矢さんの名言だな、と思うのは「〇〇さーん、心のテーピング巻いてあげて」です(笑)

 

福岡 ははは! 2024年のチームは、メンタルによってプレーがまったく違ってました(笑)。心が折れちゃった時は、泣いたりもしてましたものね。

 

三矢 人によっては大人になっていく時期だけど、まだまだ小学生だから…

 

小西 コーチやトレーナーでも「手当て」ができないことってまだまだありますよね。そんな時は「お父さん/お母さんのとこ行って、ぎゅっと(ハグ)してもらっておいで」って。泣いてはいないけれど、ヒーローズ(全国大会)では、思いっきり緊張してましたね。

 

三矢 相手のネームバリューに圧倒されて、完全に固まっていた。正直、びびってたんだと思います。試合が始まっても、お互い「俺にパスするなよ」っていう雰囲気だった。それが「いける」ってなったら人が変わったようだったけれど(笑)。

 

コーチとして、あの試合前の場でスイッチを入れてあげることはできなかったですね。やり方が分からなかったです。

 

福岡 いや、それがバンブーらしいんじゃないかな? って僕は思いますけれどね。子どもたちが固まってる試合前、コーチが円陣で声張ってキックオフに送り出すのも、ちょっと不思議な感じじゃないですか?

 

負けたあとは、みんなすごく泣いていたけど、「実質5位だ」って誰かが言ったら、吹っ切れて受け入れてる感じだった。

 

そこでヘンに大人が煽(あお)って「この悔しさを忘れるな」みたいな…そういうグズグズした感じになるのは、自分は嫌ですね。

 

小西 確かに、大人が引きずって、次の子たちに背負わせるのは違う気がします。主(しゅ)が変わってきますね。確かに私たち大人も悔しかったけれど。

 

福岡 子どもが軸、主は子ども、というのは大事かなと思います。ふだん、きつめのランメニューとかも、あの子たち結構楽しい雰囲気でやってましたよね。やらされて嫌々…ではなかった。走ることに納得感があったのかな。

 

小西 練習試合のあと、ですね。取られたトライの本数だけグラウンド走っていましたね。

 

――普通に聞いたら、それは「罰走」ですけれど…

 

福岡 ですよね。一見古風。でも雰囲気が違うんです。試合中、トライを取られると三矢さんも「あーあ、また取られちゃった」とか言っていて(笑)。最後は、(プレーヤーが)自分たちで走り始めていましたもんね。

 

小西 試合のあと、さっさと先にスタートしてる子がいた(笑)。早く済ませたかったのか(笑)

 

福岡 何かね、そういうゲームみたいになってました。トライを取られると本数が増えるから最後までディフェンスにいく子は仲間から称えられる。

経験の少ない子だと、試合中のスコアって分からなくなること、あるじゃないですか。時間帯とか点差とか関係なく、目の前のことをやる。そういう子が、最後までディフェンスにいって、みんなからすごく褒められたりする。あれはいいなと思いました。

 

三矢 もともとは私がうちの息子(当時6年)だけに、「お前は体力がないんだから、チームがトライを取られた分だけ走れ」って言ってたんです。強制です(笑)。

 

――それはそれで、よろしくないですね(笑)

 

三矢 すみません。そしたら周りの子が俺も、私もって走るようになって、いつの間にか、みんなで…。

 

――それも含めてなんですが、前に出ていた(第1部)「嫌な雰囲気」にはしないために、意識していたことはありますか。

 

三人 うーん…。

 

――誰かに「やらされている」空気、「怒られないように」という委縮。プレーヤーから主を奪いますね。

 

三矢 語弊があるかもしれないですが、僕らが過剰には尊敬されていないのかもしれません。子どもたちが、コーチに対してあんまり上下なく接してくるので…。メニューについても「もっと、あれをやりたいです」と言ってきたり。

 

福岡 「きょうは走りたくなーい!」とか、「えー?」とか、リアクションとしては普通に言いますね(笑)。

 

――その場に安心しているんですね。言っても否定されない。

 

小西 結局は走る(笑)。

 

三矢 これも賛否あると思いますけれど、あんまり練習がダラダラしている時には、「最後の試合(形式)の時間がなくなっちゃうよ」って伝えたりはしました。

 

小西 みんな、それを楽しみにしてるから。

 

福岡 さっきのランメニューもそれに近いんですけど、「勝ち負け」の要素を、盛り上がりにうまく使ってるなと感じます。ただのメニューが、ゲーム化されるようなアレンジを入れていく。チーム分けも、大人が先入観で振り分けるんじゃなくて、50m走で決めたり。いろんなプロセスについても、それ自体を楽しめるような工夫をしていました。

 

全国大会は「チャレンジの機会」。誰かを置いていくなら意味がない

 

――コーチ陣で年度の初めに話したこと。ある程度、貫けましたか。ラグビーの場が強制の場にならなかったのは、その積み重ねの結果なのかな、と。

 

三矢 そうですね。ポジションも基本は子どもたちのやりたいところを聞いていました。ただ、一つしかない位置に希望が3人被ってしまうような時もあったから、すべての時間をその通りに、とはいかなかった。3人がちゃんと希望位置で出られるようにと組み立てていました。

 

小西 あれ、試合中は時間管理がたいへんですよね。分刻みでメンバー交代(笑)。

 

福岡 ラグビー協会も決めてくれたサイレント(試合中にコーチが指示出しをしない)は、複数年取り組んでいるので、ほぼ守れていたと思います。ただ、こういうことって人が増えると意識が薄くなる。新しく入った子やコーチには前もって伝えて、その都度話さないと。「ウチはこういう方針です」と。

 

小西 他チームには、ヒーローズ(全国大会、およびその地区大会)になると かなり「勝ちに来ている」ところもありましたね。

 

福岡 ありますね。「ここでこの子を当てて、巻き込んでラックを作って、次の局面で…」、みたいな。機械的にプレーヤーを動かしているように見えた。

 

三矢 びっくりしました。

 

小西 バンブーは、そういう意味でも子ども自身が「楽しむ」、は貫けた気がします。

 

三矢 そもそも僕らにはラックを作りにいく発想がないですね。まずは倒れない。もうワンモーション入れられるように体を使って、繋げたら繋ぎたい。

 

――いい意味で偶発性がありますね。次々サポートがきて、どんどん繋がったら楽しいだろうな。機械的にはできない。試合中に子どもたちがポジションを変えてしまうくらいですもんね。大人が介入しづらい(笑)。

 

三矢 キックオフを蹴る人と追う人なども、途中から自分たちで決めてました。

 

で、うちの次男(6年生)が試合中に、突然、(キックオフで)蹴ろうとしたことがあったんですけれど、ある子がそれを止めたんです。

「俺が蹴るから、〇〇は、疲れるけれど取りに行ってよ。僕より大きいんだから、競りにいってほしい」って。

しかもその子は5年生。すごいなと思いました。年上の、しかもキャプテンに対してもそれが言えるんだなと。伝えている内容も素晴らしいですよね」

 

福岡 共同キャプテンの二人(男子と女子)を中心に、練習中もよくしゃべってました。

 

小西 いや、どっちかというと二人は、揉めてたかな(笑)

 

福岡 意見は正直にぶつけ合う。でも、それがお互い心のどこかに響いているように見えました。次のコミュニケーションの土台になっていた。彼ら彼女らなりに真剣で、それも勝手な思いをぶちまけているわけじゃない。

 

――勝ち上がっていくと、他チームとの関わりを含めて、いろいろシビアなこともありますね。プレッシャーも感じて当然。バンブーとして、全国大会の存在を今、どんなふうにとらえていますか。

 

三矢 ヒーローズ出場はバンブーのデフォルトではない、というのが大人の認識です。ここは各代のコーチ陣が、世代をまたいでいろいろ話してきて、いったんの結論。出るか出ないかは毎年、話して決める。ただ、子どもたちの感情の流れとしては、「来年、自分も出たい大会」になっています。

 

小西 私は保護者として、6年生が1人で後輩を引っ張って(ヒーローズで)がんばっていた頃の姿も見ていいます。そういう思いを自分の子にも体験させてあげたい気持ちはあります。

 

三矢 一つの目標に向かって、みんながまとまっていく体験は、すごくよかったと思います。

 

小西 すべて制限を解いてただ勝つためにやるなら、メンバーは変えないほうがいい。バンブーはそれでも全員出す。できるだけみんなで体験することには、こだわれたと思います。

 

三矢 昨年、実は子どもたちから大人に要望がありました。

 

メンバーについて「勝ちたいから、こういうふうにしたい」と。私は受け入れませんでした。交代を使って、せめてエントリーした子は全員が出られるようにする。異論を挟むコーチもいませんでした。

 

「全国」といううれしい事柄が、クラブの神話にならないように

 

――子ども自身はプレーヤーですから、勝ちたいですよね。それは健全ですね。問題は、大人がどうリアクションするのか。「子どもたち自身が望んでいるから、交代はしないんだ」と、言ってしまうこともできる。

 

福岡 「うちの子を出してくれ」とか、逆に「うちの子を出さずにフルメンバーで最後までやってほしい」とか、コーチや保護者が言ってこないのは、ありがたいですよね。ふだんから、小さい頃から一緒に練習して、そういう土壌ができているのだったらうれしいです。

 

小西 そういえば組み合わせ抽選会にも、バンブーはキャプテン二人に参加してもらいましたね。それをみんなでネットで見て盛り上がった。そういうところも全部イベントにしてしまう(笑)。思えば、いろいろと手間がかかってますよね。

 

三矢 僕は意外だったんですけど、抽選会に子どもが参加しているチームって、他になかったですね。

 

福岡 僕は今年、高学年のコーチ(ヘッドコーチ)を務めているのですが、「ヒーローズは、子どもたちみんなのチャレンジの場」ということは変わらない。これは通年としてですが、5年生も融合して、高学年が一つのチームとして臨める空気を作りたいです。

 

――三矢さんはお子さんが二人ともミニのOBになりました。小西さん、福岡さんは引き続きお子さんも所属しますね。クラブとして、今後のバンブーに期待することはありますか。

 

三矢 …みんな楽しんでほしいな、ということだけですね。

 

福岡 自分は昨年、入れ替わり立ち替わり、OBOGがミニの練習に顔を出してくれたのがすごくうれしかったです。中学生はいろんなチームから集まって、胸を貸してくれたり。ジュニア(バンブーの中学部)は、隣で練習していることも多いので、一緒にプレー時間できる時間をくれないかと頼んだら、みんな喜んで来てくれた。ミニの出身じゃない子もいるのに、ありがたかった。

 

今年は、ジュニアも含めて、全カテゴリーで連携できる場をもっと増やしたいと考えています。幼児から中学生までがあのジャージーでって、最高じゃないですか。そういう光景をもっと増やしたい。

 

三矢 僕は、2025年に向けていちばん心配していたのは、美化でした。全国大会に出たことや、前の代のことがヘンに盛られて、神格化されちゃうこと。

 

一つ下の代、コーチや保護者のみなさんが、大会があることで張り切ってくれるのはうれしいけれど、たとえば「こんなんじゃヒーローズに出られない」とか「お前ら、全国に行きたくないのか」みたいな言葉が出るようなマインドだと、台無しになる気がします。

 

そういうふうに「全国」を使ってほしくないし、まして子どもたちの貴重な場を使ってはいけないと思う。「やるからには勝ちたい」とか、大人が、素で言い始めたら危ないです。そこは、(クラブの)代表者として見ておきたい。誰かが楽しめない、そういう場には絶対にしちゃだめ。

 

福岡 いま練習に出てみて、そんなこと言っている人、いました?(笑)

 

三矢 いや、全然いなかった。意外と大丈夫かなって思いました(笑)。

 

小西 2024年のバンブーは、5年生、6年生になっても新しい仲間が加わってくれた代でした。個別のスキルやゲーム勘の面では、小さい頃からやっている子とは差がある。それは仕方ないし、今時点の話です。

 

僕はこれまでいろんな子の成長を見させてもらったから、ラグビーは「一生懸命やれば、できるよ」って伝え続けたい。「心のテーピング」を巻いていこうかなと思います。

 

福岡 スタート地点も成長の度合いも人によって違う。チーム内の幅が大きいのはこの年代の特長でもあると思います。あくまで現時点ですけど「差」があるのは確か。上だけに合わせて活動するのは根本的に違うし、すべてを下に合わせたら面白さが深まらない。個別の練習も入れながら、みんなで楽しめる場にしていきたいです。第一、ミニで何かが終わるわけでもないですからね。

 

三矢 一年、早いですね。今年のチームがどういう風になるのか、すごく楽しみです。

 

(終わり/全3回)

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テキスト②はこちら

 

 

 

●福岡大輔さん(左写真/高学年ヘッドコーチ/2024年度5年生コーチ)。現在は東京高校でプレーするご長男はジュニア(中学)でもバンブー所属、ご次男はミニに在籍。バンブー独自のファミリー感を誰より大切にする。現役時代は大学ラグビーで俊敏なSHとして活躍 ●右写真はジュニア(中学部)の阿久根潤HC(右)と福岡コーチ。カテゴリーを越えた連携をさらに進める。ALLバンブーでの一斉練習は、プレーヤーたちも楽しみにしているセッションだ

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